ジョブコーチトピックス

働き続けるを支える仕組みをどのように考えるか?  ( 志賀 利一 : 2016/07/24 )

7月23日のジョブコーチ・カンファレンスは、本当に勉強になりましたね。いろいろ考えさせられました。校正をせずに、長い文章を書きますので、誤字だけでなく不適切な表現があるかもしれませんが、お許し下さい。また、教科書ではありませんので、詳細な社会的背景を大胆に省略します。

1.知的障害者の雇用義務化が契機に


1998年の知的障害者雇用義務化は、現在の障害者雇用ならびに就労支援の仕組みや支援の方法に大きなインパクトを与えました。ちょうど厚生省と労働省の統合前夜でもあり、労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部長が招集した「地域障害者雇用支援ネットワークに関する研究会」(1998年〜1999年)において、現在の就労支援の施策の大まかな骨組みが示されていました。


結論は、職業準備訓練の後、職業人として独り立ちできる障害者だけではなく、これからは職場生活だけでなく、日常生活においても人的支援が必要だと考えられる障害者を、企業等が雇用し、同時に社会(労働や福祉施策のもと)で支えていくということです。私は、当時「当たり前のこと」を言っているだけで、歴史的な重大さを全く認識できていませんでした。なぜなら、1993年に横浜で大きなイベントがあり、その話がすでに共通認識だったからです。後に「地域で働くことを支える」というタイトルでぶどう社から出版されています。


以後、障害者雇用や就労支援の新しい施策が矢継ぎ早に打ち出され、知的障害者や、さらに精神障害者が、いわゆる大手企業等を中心に沢山雇用されるようになります。働き続けてからも支えるという理念はあるものの、急激に膨れ上がった働く障害者を支え続ける仕組み・人材は追いつかず、常に大きな課題として議論されてきました。


2.働き続ける障害者を支える仕組み


労働施策では、ジョブコーチ(職場適応援助者)が有名です。助成金の仕組みが出来上がってから既に10年以上の歴史があります。ただし、この事業は、就職後の職場適応ないし新しい職業生活への移行をスムーズに行うことが目的であり、就職してから一定期間しか活用できません。多くは、集中支援2〜4カ月、フォローアップ1年程度が多いようです(これ以外の活用方法もありますが)。


そして、ジョブコーチの助成金と同年に、(あっせん型)雇用支援センターから衣替えした障害者就業・生活支援センター(愛称:なかぽつ)も大切な役割です。相談支援機関として、障害者の職業生活を長期間、地域の様々な資源をコーディネートし支える切り札と考えられていました。現段階で329カ所が運営されていますが、爆発的に増え続けている職場継続支援を「担いきれない」と、多くのなかぽつは訴え続けています。


そこで、2015年よりなかぽつに、主任職場定着支援担当者が新たに配置されることになり、今年度は40カ所で配置されています。実際の職場で職場適応援助の実務経験が豊富な担当者が、様々なアセスメントやジョブコーチのサポート等を通して職場継続支援を専門に行うことを目的に配置されました。今後も拡充していくものと予想されますが、担当者の要件も大切ですので、緩やかに増加する職場継続支援を専門とする仕組みです。


福祉施策では、就労移行支援事業が就労後のフォローを行うよう推奨されていることです。特に、2015年より就労定着支援体制加算として、従来の6カ月までのフォローから、最大3年間までが評価対象となっています。就労者数ならびに定着者数が多い事業所では、加算により相当額の収入があり、定員をかなり超えた人材配置が可能になっているはずです。


しかし、この新しい加算の仕組みの検証を行う前に、法改正がありました。この前成立した、障害者総合支援法の改正において、「職場定着支援」という新しい事業が誕生することが決まりました。わかりやすく表現すると、準備訓練期間、求職期間、定着支援期間のすべてを就労移行支援事業が行っていたが、そのうち就労後の定着支援期間を切り離し、新事業にすると言うものです。実際は、実績豊富な就労移行支援事業が、職場定着支援事業を併設し、多機能事業として運営することになりそうです。


昨年はじまったばかりの仕組みを検証することなく新規事業を立ち上げなくてはならないほど、働き続ける障害者の支援に対するニーズが高かったのか、それとも障害福祉の財源確保の厳しさを憂慮してなのか、私にはわかりませんが、多くの就労移行支援事業に衝撃が走ったのは事実です。ただし、施行は2018年4月からであり、詳細な仕組みについて本格的に議論が始まったばかりです。


3.どうして働き続けることを支える必要があるのか


ここで、働き続けることを支える必要性について、考えてみます。1998年以降の、新しい障害者雇用の対象者の多くは、認知機能に何らかの障害があると想定されている人たちです。ハローワークの職業紹介の実績を見ると、その変化はよくわかります。些細が必要な理由は、大きく4つにまとめられるはずです。


① 初期の職場適応:
就職が決まると、仕事を覚え、職場に慣れる必要があり、その他新しい職業生活がスタートします。誰にとっても、大きな期待と同時に不安も高まります。大きな変化を苦手としている障害者にとっては、新しい場所、仕事、そして上司・同僚、さらに新たな日課にうまく適応し、自らの力を職場で十分に発揮するには、一定期間専門的な支えが必要になります。

② 職場の変化:
就職後の仕事や職場環境に適応したからといっても、同じ環境は長く続くわけではありません。経営方針の変更に伴い、組織改革、人事異動、各種ルールの更新等が短期間に行われるのが民間企業です。このような変化にもうまく適応する必要があり、場合によっては専門的な支えが必要になります。

③ 日常生活の変化:
職場ほど頻回ではないと想像されますが、住まいの引っ越し、友人やサークル活動、頼りにしていた知人との関係など、日常生活においても急激あるいは静かな変化がつきものです。

④ 自らの心身の変化:
周囲の変化がなくても、自らの心身の健康状態の変化、職業生活への慣れと生活習慣の乱れ、明確な外部理由が判明しないワークモチベーションの低下など、障害の有無にかかわらず誰にでもあることです。時には、働き続けることに支障をきたす場合もあり、専門的な支えを必要とする場合があります。


4.働き続ける障害者を支える仕組みが考えられた時代と現在


最初に、1998年頃に、現在の障害者雇用・就労支援施策の骨格が出来上がったと記しました。当時は、「100メートル走で、身体障害者は既にスタートを切り50メートル付近まで到達しており、知的障害者はスタートを今まさに切ろうとしている、そして精神障害者は競技場のトラックに姿を見せていない」状況と比喩されていました。株主代表者訴訟、実雇用率の開示請求、トライアル雇用など、障害者雇用の大きな曲がり角の前夜でした。働き続ける障害者を支える事業に関する現在の議論は、この当時の時代背景を引きずっているように私は思えるのですが、皆さんはいかがでしょうか。振り返ってみます。


当時は、ハローワークに障害者求人は本当に少なかったです。地域のハローワーク開催の集団面接会が開催されても、身体障害者以外の求人OKの会社には、長い列がつき、最終的には、大多数が履歴書を提出するだけで面接なしという時代でした。養護学校の進路担当教諭も障害福祉領域で就労支援を行っている支援員も、求人広告を参考に電話や企業訪問を行い、何とか職場実習先を開拓し、あわよくば就職!と考えていたものです。100社電話しても、面接にこぎつけるのは数社といった苦労話も当たり前に聞きましたし、「あの事業所の前には自転車がたくさん止まっているから、パートの人を沢山雇っている。知的障害者や精神障害者ができる仕事をやっているに違いない」と独特の臭覚で職場開拓する人材もいました。


当然、こういった状況ですから、一旦見つけた職場を辞めたら、次の職場を見つけるのは大変でした。辞めると、毎日通う場所が無くなり(福祉は措置制度)、生活習慣も崩れ、再就職がますます難しいといった悪循環もありました。そういった意味では、働き続ける支援も重要だったわけです。今とは、大違いです。当時は、想像もできませんでした。


5.冷静に考えてみると


現在は、実雇用率が1.88%になり、求職活動に伴奏してくれる相談機関(なかぽつ等)、身近な地域での職業準備訓練と適職評価を行う機関(就労移行支援事業等)、採用後の初期の適応について職場で専門家が支えてくれる(ジョブコーチ等)が制度として整備されています。こんな疑問が湧いてきます。


Q1:障害者と類似した職域や類似した労働条件の障害のない労働者は、どれくらい同じ職場で働き続けるのでしょうか? それは障害者より明らかに長いのでしょうか?


Q2:障害者と類似した職域や類似した労働条件で働いていた障害のない人が転職する際の困難さと、障害者の転職の困難さではどのような違いがあるのでしょうか?


1998年頃も、私は経験則としては、Q1は、知的障害者の方が「長く働く」と信じていました。そもそも、知的障害者はクローズで(雇用側に障害を開示せずに)雇用というのは例外的でしたし、採用段階で進路担当や福祉施設職員が「縁故」の代わりに「(制度にない)信用保証」をして就職していたわけです。これは、かなり有効でした。ただし、Q2は、明らかに障害者は不利だと考えていました。だから、同じ職場で働き続けることを望み、上記の①〜④の就職後の支援の大切さを訴えていたように思います。米国で先に展開されていた「援助付き雇用」も励みになりましたし。


現在の精神障害者についても、障害者雇用の仕組みに則り採用されている人は、1年後も同じ職場で過半数の人が働き続けています。対象者を精神障害者としても、現在Q1の回答はどうなるでしょうか。調査すべきデータがありませんが、多分、精神障害者の方が、同一の職務や労働条件の障害のない労働者より長く働いているのでは無いでしょうか(単なる勘です)。そして、現在、Q2はどうでしょうか。休暇(休職)をとる、あるいは退職するタイミングを遅らせてしまい、心身の健康状態が著しく悪くなってしまい、すぐに求職活動に再挑戦できない人は一定数存在すると思われます。しかし、その割合はどれくらいでしょうか。就職時と同様の心身の健康状態で、外的な理由、あるいは特段明確な理由がなく、ワークモチベーションの低下で退職した人は、再就職が障害のない人より困難でしょうか。


法定雇用率の引き上げは、障害者雇用の責任を持つ企業の担当者にとっては大きな問題です。企業にとって、せっかく採用した障害者が辞めていくのを黙ってみていることはできません。今年のはじめに、調査で特例子会社をいくつか訪問させていただきました。驚いたのは、どこも職場定着支援の担当部署を設置したり、専門家を配置しています。そして、その部門・人材と役員とが一体となり、様々な社員教育を企画、昇給昇格の新しい人事制度・給与制度、期間毎の業務評価や表彰制度など、各社独自の工夫を行っています。このような職場定着の取り組みに、現在のジョブコーチや主任職場定着支援担当者、そして多分職場定着支援事業も、ほとんど役に立たないと思います。


現在も、先に記した「①初期の職場適応」は絶対に必要だと思います。しかし、②〜④は、不必要だとは思えませんが、どのような方法でどのような専門知識やスキルのある人材が必要なのか、簡単には答えが出ません。心身の健康状態を適切に判断し、あるいは障害者と職場とのミスマッチを放置しない、離職をサポートすることも大切であることは分かります。


6.個人の権利擁護に偏るつもりはないが


障害者の就労支援を担う人材は多様であり、考え方も決してい一様ではありません。障害者個人の権利擁護にのみ強く傾倒した支援を良しとする機関・人材もいますし、障害者が働いている企業の成長や職場環境を非常に重視する機関・人材もいます。前者が強調され過ぎると、採用された職場でいつまで働こうと、障害者が自ら決定することであり、支援機関等がとやかく云う問題ではないとなる場合もあります。後者が強調され過ぎると、障害者の自らの想いを汲み取ることなしに、職場側の意向を大切にした定着支援に終止する場合もあります。もちろん、支援機関だけでなく、障害者を雇用する企業も様々です。企業の多様性は、一言で説明するのは本当に難しいですね。


都市部の多くの大手企業は、想定している仕事ができる、社風にマッチした障害者の採用の難しさをよく知っています。そして、せっかく採用して、職場で仕事をこなせるようになった障害者には、長く働いてもらいたいと考えています。それゆえ、社内だけでなく、地域の就労支援機関にも積極的に「働き続けることを支える」ことを希望しています(逆に、職場の雰囲気を乱す社員を引き取って欲しいということもないわけではない)。


私は、労働と福祉の狭間の就労支援は、その他の障害福祉の仕事と違い、本人の安心・安定した生活に向けての支援が最重要ではありますが、それだけでなく本物の会社で働くことで(労働者としての側面から)私たちの国の経済・社会の発展に貢献することを手助けする仕事だと考えています。そのためには、障害のある人に可能な限り長く働いてもらいたいと願っています。しかし、働き続ける障害者を支える方法については、まだ十分な回答が見えていない段階であり、その制度作りには本当に慎重であるべきだと考えています。

「働き続ける〜」難しく、素晴らしいことですね

志賀先生

3月のJC-NET会議では示唆に富んだお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

今回の「働き続けるを支える仕組み〜」でも、知的障がい者の雇用義務化当時の話から現在まで大きな流れを確認することができました。

また、締めの文章にある『本物の会社で働くことで(労働者としての側面から)私たちの国の経済・社会の発展に貢献することを手助けする仕事』の部分が胸にささりました。

私は、働く人たちに『私たちの国の経済・社会の発展に貢献すること』をしてもらっているのか…? 自問しましたが答えはすぐには出ていません。


投稿者: 中川二郎 2016/07/25
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