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給付費を賃金(工賃)として支払うこと  ( 志賀 利一 : 2014/12/06 )

【A型事業所に問題意識をもつのは少数だけ?】
少し前(11月4日)の厚労省障害保健福祉部が開催した主管課長会議資料で、就労継続A型事業所における、本来の利用契約を無視した短時間就労等について都道府県や政令市・中核市に積極的な指導を行うよう要請されています。

その資料の中に「利用者も従業者も短時間の利用とすることによって浮いた自立支援給付費を実質的に利用者である障害者の賃金に充当している事例など、本来の就労継続支援A型事業の趣旨に反するだけでなく、自立支援給付費を給付する趣旨からも不適切である事例が見られ」といった文書があります。

いわゆる本来の生産活動による収入ではない、給付費が賃金(工賃)に支払われている実態がかなりたくさんあるということです。給付費とは、本来「障害のある人が働きやすい環境の整備」「安定した働きが可能なように生産活動の長期的な計画とその遂行」「生産活動を通して社会生活に必要な知識や能力向上の訓練」等を、管理者・サービス管理責任者・生活支援員・職業指導員等がチームを作り行うために、公的なお金が投入されて支払われているものです。主旨に反した給付費の使われ方をしているということです。

事業者だけでなく、当事者や関係者の中には、仕事が少なくても、「しっかりと賃金が払われていればいいではないか?」「B型とは比べ物にならない工賃がもらえるのになぜ批判するの」といった意見を述べる方もいます。確かにA型事業所は一人あたり月4万円の賃金というのが現状です(平均は7万円ですが、最頻値は4万)。B型は、最頻値は7千円程度です(平均は1.5万円弱)。最頻値比較だと、A型はB型の6倍近くの収入が得られるのですから、そのような考えが生まれるのも致し方ないのですが、しかし・・・

【悪意ある事業所事例(空想)】
そこで、ひとつの悪意あるA型事業所のモデルで説明します。実際は、こんな事業所は無いと思いますし、あってもらっては困りますが、あえて記します。数字は、計算しやすくするために、単純な数字にします。

悪徳就労支援事業バイス(就労継続A型)の定員は20人です。1人あたりの1日の個別給付の収入は6,000円です。月に平均20日営業していますので、1人あたり事業所には12万円の給付費収入があります。この事業所は、現在生産活動をまったく行っていません。ビジネスモデルは、給付費を障害のある従業員(障害従業員:利用契約+雇用契約している)と管理や指導・支援を行う従業員(指導従業員:雇用契約している)に支払うというモデルです。障害従業員には、4万円の賃金を支払います。残りの8万円は、人件費とその他事務費ならびにわずかな事業費で消えていきます。指導従業員は障害従業員5人に1人の割合です(兼務管理者・専任サビ管を含め)。また、指導従業員の人件費以外の事務費や事業費は、だいたい給付額の25%(1人あたり3万円)です。ということは、指導従業員の月額平均賃金は(8万円ー3万円)☓5人=25万円ということになります。税金や社会保険等の間接経費を引くと、各種手当(通勤手当)を含んで手取り17万円程度と推測しました。

利用者さえ集まれば、何とか収支トントンになりますね。でも、バイスを運営する法人には、これでは旨味がありません。さらに、事業所開始時に必要な初期費用を回収できません。しかし、法人(事業所バイスではないところが味噌)には労働関係から、報奨金が入ります。また、特開金等各種助成金を活用できます。すべて揃えると、驚くほど大きい金額になります。旨味ありです。

【逆転の発想】
ここで、介護保険制度がスタートした時の議論を持ち出します。自立支援給付は、保険料を当事者が支払っていないので、乱暴な議論ですが、お許し下さい。

介護保険がスタートするとき、この分野の先進国ドイツで、「現物給付」ではなく「現金給付」を受けている人の割合が高いという現状が紹介され、日本でも現金給付(介護手当)をどうするかという議論になっていました。ヘルパーやデイサービスの事業所に報酬が保険者(市町村等)から支払われる仕組みだけでなく、直接介護が必要になった人に相応の現金が定期的に保険者(市町村等)から支払われるということですね。結局、日本の介護保険制度にはなじまないということで、現金給付は採用されませんでした。

就労継続A型事業所で、同様に現金給付を考えてみましょう。月あたりの賃金が4万円でなく、給付費全額とすれば12万円を手にすることができる可能性があります。単純に考えれば、3倍の金額が収入として得られるのです。この金額なら、生活保護件数も相当減りますね。悪徳法人運営のバイスに3分の2の手数料を払わなくても済みます。それでも「B型よりたくさんの賃金をもらっているから問題ないのでは?」と言えるでしょうか?

現実に、現金給付にすると、支払いに事務経費が今よりかなり大きくなりますし、他の事業や平均通勤日数等の計算もあり、12万円よりかなり低い額になると思います。また、最低賃金で真面目に一般就労している人が、この給付に対してどのような行動をとるか考えると・・・

「たくさんもらっているからいいでしょ!」は、大きな勘違いだと言いたいだけのレポートでした。もっと、別の視点からも、理論武装する必要がありますが。

A型事業所は大切です

いい忘れていました。自立支援法以降誕生した、A型事業所は、障害のある人の就労を支える重要な仕組みだと、私は考えています。また、規制緩和等により福祉工場とは比べ物にならない程、大きな事業に育ってきたことも素晴らしいことだと思います。
社会福祉法人が運営する場合、会計処理の関係から、生産活動と工賃の収支がガラス張りですから、短期の給付費の工賃流用があっても、実地指導等で修正可能ですしね。
それにしても・・・
経済原理に則った生産活動を中心とした事業ですから、「半永久に生産活動を継続しなくてはならない」 というのは無理がありますが(ある程度の規制緩和は仕方ない)、2年少々の短期間で事業所閉鎖する実態があると、心配になりますね。

投稿者: 志賀 利一 2014/12/06
課題、多いです。

ご無沙汰しております。北海道の高坂です。

札幌でご迷惑をおかけして以来でしょうか?

さて、A型事業は、大事な事業だと思います。でも課題は多い事業であることは、事業を実施している法人に身を置いてる私にも強く感じています。ちょっと感じていることだけでも次の4点があります。

1)利用時間に関わらず給付費が一定(労働時間により、減額はありますが)

2)労働系助成金の受給について(特開金、報奨金等)

3)就労移行支援事業の就労者カウント

4)生活保護制度との悪循環

まだまだ、これら以外にもあるとは思いますが。

私も北海道の就労系サービス管理責任者講習等でも志賀さんがご指摘されていらっしゃることをお伝えしているつもりです。現金給付のことでも「収入だけを考えるなら、事業所などなく、給付費をそのまま障がい者本人に支給したほうがよくて、事業所は不要」とも思っています。

とても刺激的な言葉を使っていいなら、私の個人的な見方では「給付費を賃金にしている」ということは、原則本人が受給できる金銭の「上前をハネているだけ」ともとれてしまうのです。

個人的な見方ですが、平成18年10月の事業開始当初からA型事業の理念やコンセプトがしっかりとしたものでないことが、今の課題を持ってしまったのではないかと思います。

単純に雇用契約の有無と、当時の授産施設と福祉工場のイメージのみで、もし現行のA、B型事業ができたのであれば、利用される方のカテゴリーが増えた状況に対応できていないのは、致し方ないところでしょうか。

でも、A型事業所は必要です。特に期限の定められた就労移行支援事業の利用期間では雇用就業にいたらなかったけど、それよりも長い時間をかければ雇用就業に結びつく方たちや、はたらく力はあるけれど、環境の調整が企業文化になじまないため、雇用就業に結びつかなかった方たちには、重要な事業だと思います。

個人的には今こそ事業者の「モラル」が求められていると思います。


投稿者: 高坂一人 2014/12/13
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